徘徊おばあちゃんは赤紫蘇に染まってく
ご近所さんに、徘徊おばあちゃんがいる。
駄菓子の袋だったり、汚れたぬいぐるみだったり、庭のお花だったり。
何かを片手にもちながら、あちらこちらをふらふら歩いてる。
今日の夕方、徘徊お婆ちゃん家の前を通ったら、なんと玄関の前に
お婆ちゃんが座っていた。
新聞を敷き詰めて、赤ジソの葉っぱ、ドロ付きラッキョウが山のように
広がっていた。
お婆ちゃんは、ラッキョウの皮を剥いたり、紫蘇を洗って何かをしようと
してた。それにしても大量の紫蘇で、梅干し用には多すぎる。
(んー。紫蘇ジュースでも作るんだろうか・・・。)
いつもは、なんとなくあまり目をあわせないようにしてるんだけどさ。
ラッキョウの皮をむく手さばきやら、紫蘇を綺麗に新聞に広げて乾かして
いる光景に、見とれてしまったんだよね。
徘徊したって、ちょいボケちゃったりしても、こうして何年も自分がしてきた
季節の仕事はしっかりできるんだな。
いろんなことを忘れたって、ラッキョウや梅干しの作り方は忘れないんだな。
しげしげと、お婆ちゃんの顔をみてしまった。
目があって、本当は「その紫蘇は何に使うんですか?」ってね。
きいてみたかったんだけど。 そのことで、いろいろ話し込まれたり、
「保存食づくりとはねー。」とか語られちゃって、帰るタイミングを逃したりしたらどうしよう・・・・・。
んー。やっぱり、なにか、そっとお婆ちゃんの世界にははいりこまないのが
いいんだ。そう思って、速度をあげて、通り過ぎた。
角を曲がるとき振り返ったら、白いボオルに真っ赤な紫蘇の色が滲み出て、
お婆ちゃんの手も顔も何もかも、真っ赤にそまって、いつものようにぼんやりした表情で
手だけがお婆ちゃんと分離してるみたいに、ラッキョウと紫蘇の間をてきぱき動いてた。
今年の僕といえば、まだ、らっきょうも、梅も買ってないんだ。
「週末あたりは、買いにいこうと思う。」僕もぼんやり、柴犬に向かって云った。






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